この文章は、2014年5月11日に行われたガイナーレ鳥取対FC琉球の試合を観戦したときのものです。そもそもは、『サポーターをめぐる冒険』の続編のために訪れたつもりだったのですが、ぼくの表現力の乏しさなどもあり、当時の一連の旅は、書籍用の原稿としてはまとめてボツになってしまいました。
改めて文章にしたのは2019年の2月で、旧OWL magazineの最初の旅記事として公開しました。
2014年から今まで僕が取り組んできたテーマはかわりません。サポーター目線、観客目線でサッカーを表現していくことです。今の活動にも繋がる萌芽となる文章。OWL magazineとして出した記念すべき最初の旅記事として、ご覧頂ければと思います。
これから、鳥取を訪れた日のことを語ろうと思う。
OWL magazine初の「本格的な旅記事」として、過去の鳥取を選んだのには理由がある。一つは、まだオフシーズンなので最新の旅に行くことが出来ていないというのもある。
これについては3月に今治を訪れ、順調にいけばベガルタ仙台アウェーに便乗して松本に乗り込み、出来ればホーチミンなどの海外にも行きたいと思っている。ただ、今は昔の旅を掘り起こしていく段階なのである。
ここはOWL magazineを始める上で一番重要なポイントなので、説明を試みる。
昔の話だからといって価値が下がるわけではない。
とはいっても、昔の試合の価値は下がる。
ややこしい言い回しだが、こういうことになる。もっと詳しく話そう。
サッカーの試合において、価値が最大化するのは、試合の最中か、試合直後に話題を生んでいる時だ。誰が得点をしたのか、両チームの運命を分けた反則とは、監督はどんな戦術を駆使したのかなどが話題となる。
そして、数日すると、誰も語らなくなる。少なくともニュースバリューは消える。そして、次の試合が行われると、ほとんど無価値になっていく。
これはライター目線で言うと露骨にあるもので、1週間前の試合のレビュー記事を書いてもどこにも掲載されない。ワールドカップの決勝などの特別な試合の場合は若干寿命が長いが、それでも1週間は怪しいものだ。
試合の情報は、せいぜい翌日で、詳細な分析記事であっても2,3日が寿命だろう。これはサッカーの試合についての情報はフローであるということを示している。多数の情報が流れ、そして消えていく。フローとは流れて消えていくものなのだ。
対概念はストックで、こちらは蓄積されていく。当時、Jリーグの試合は一つ一つが非常に面白く、観客にとってもずっと心に残るものになるのに、あっという間に忘れられていくことに対して、何とも言えない無力感を感じていた。
もちろん、すべての試合を詳細に記録し、大辞典的にデータベースとして残すことは出来る。これは明瞭にストックである。とはいえ、これはJリーグとか、FIFAとか、あるいは大手メディア、専門メディアがやることであり、個人ではなかなか難しい。
2014年に行われたガイナーレ鳥取vsFC琉球という試合に関心を持つ人がどれだけいるだろうか?
J3の試合であり、首位争いでも何でもない。何ら盛り上がる要素はなく、地元鳥取でもあまり注目されていなかった。
それを何年も経った後に記事にして果たして価値があると感じてもらえるだろうか。
ぼくは、可能だと思っている。
あの時の鳥取への旅は何年経っても決して色褪せていない。鳥取だけではない。Jリーグと共に、あるいは日本代表と共に旅した記憶は、ぼくの一生の宝物だ。
つまり絶対的なストックなのだ。
どうだろう。
過去のサッカー旅で色あせているものはあるだろうか?
みんな素晴らしい思い出になっているのではないだろうか?
OWL magazineは、ファン・サポーターが、それぞれの宝物を持ち出して、Jリーグや、世界のサッカーを彩っていこうというプロジェクトなのである。
というわけで舞台は2014年の鳥取へ——。
いや、その前に兵庫県の三宮駅へ——。
「隣の県だから、すぐに着くだろう」
そう考えていたのだが、甘かった。大甘であった、
この日は、ノエビアスタジアムでヴィッセル神戸vsヴァンフォーレ甲府を観戦していた。
ご飯を食べた後、試合後に鳥取に移動しようと思っていたのだが……。
隣の県なので、電車で1時間もあれば十分に到着するだろうと思っていた。しかし、甘い見通しだった。
思えば関東は便利なところなのだ。自分が都の西北ならぬ、都の極東に住んでいて、千葉県までは徒歩でも20分程度、電車でいうと一駅であった。
埼玉も神奈川も近い。
埼玉スタジアムや日産スタジアムも、1時間強で到着する。茨城も、栃木も、山梨も2,3時間あれば十分に到着することだろう。
上野駅から長野駅も1時間40分、新潟だって2時間、大阪だって3時間ちょっとで到着するのだ。
だから、鳥取にも簡単に到着出来ると思っていた。
一つの誤算は、兵庫県の巨大さであった。瀬戸内海から日本海までの南北のボリュームは改めて日本地図を見つめると非常に分厚いものに見えてきた。
調べてみると、三宮駅から鳥取駅まで約180kmであった。東京から、神奈川県を経由して、富士山の横を通り過ぎて、静岡市まで行くのと変わらない距離であった。ご近所とは、とても言えない。
兵庫と鳥取は、隣と言えば隣だがとても遠い。
特急「スーパーはくと」を使えば、2時間15分であったが、本数が少なく、価格も高い。それならばと、長距離バスで向かうことにした。こちらは価格は安いが、4時間もかかる。
まだ宿も決めていないのに、到着は22時頃になる見込みであった。
闇夜を走る高速バスに揺られながら、携帯端末で宿を探していたのだが、途中で電波が途切れる。
何度も何度も途切れる。
トンネルが多いのと、もしかしたらあまり人が住んでいない地域を通過しているのかもしれない。
陸の孤島――。
そんな言葉が頭をよぎる。
鳥取は、人口約56万人の県で、全国で最も人が少ない県である。
鳥取を訪れる目的は、もちろんガイナーレ鳥取である。
拙著『サポーターをめぐる冒険』で、「J2/JFL入れ替え戦」について書いた。開催場所は、香川県の丸亀競技場である。
その際、鳥取からもたくさんのサポーターが訪れていて、応援の声をあげていた。しかし、カマタマーレ讃岐が勝利し、鳥取のJ3降格が決まった。
そして、サポーター達は、重く沈黙していた。その時の様子がどうしても忘れられなかった。
敗北したガイナーレ鳥取は、新設されたJ3に所属することになった。ガイナーレはどんなシーズンを送っているのだろうか。
そして、鳥取とはどんなところなのだろうか。
……。
鳥取駅に到着したのは、22時過ぎであった。
車中、途切れる電波と戦いながら、何とかホテルを予約することが出来た。街の外れにあったので、10分ほど歩く。
普段は合宿所などに使われる宿のようだ。部屋の中には畳の上に敷かれた布団とテレビ以外には何もなかった。これを鳥取らしいと言ってはいけないのかもしれないが、「鳥取の洗礼」という感じもして少し可笑しかった。
とはいえ、暇だし、少し寂しい気分になったので、スーパードライを一缶購入して、部屋で飲むことにした。
ビールを飲み終えると特にやることがない。さっさと寝よう。
……。
……。
Zzz……。
翌朝、気持ちよく目覚める。
さっさとチェックアウトして、駅前へと向かうことにした。ここにいても何も起こらない。
今回の鳥取で決めていたことは3つある。「ガイナーレ鳥取の試合」を見ること、「鳥取砂丘」へと行くこと、そして、「すなば珈琲」へ行くことである。
「すなば珈琲」は、当時話題になっていたカフェである。鳥取県は全国で唯一、スターバックスコーヒーが出店していない県であったのだが、「スタバはないけどスナバはある(鳥取砂丘のこと)」というジョークを、当時の県知事が言ったことにちなんで、「すなば珈琲」なる店が出現したのである(2015年には幸か不幸か本物の「スタバ」が出店した)。
「すなば珈琲」は、鳥取駅の目の前の目立つ場所にあった。
メニューを見るとブレンドコーヒーにトースト、ゆで卵、フルーツ、サラダがついて450円である。ぼくはトーストセットにしたが、おにぎりセット(味噌汁、卵焼き、漬け物付き)や、朝粥セット(6種の薬味付き)も同じ値段であった。
なかなか満足できるメニューであった。本物のスタバでは、朝粥セットは食べられないだろう。
朝食後、試合までは随分と時間があった。
天気も良いので街を散策することにした。少し歩いて気づいたのは、品のいい個人営業のカフェが点在していることだ。「すなば珈琲」に入らなくても選択肢はたくさんあったらしい。街の規模はあまり大きくないが、カフェは非常に充実していた。カフェめぐりが好きな人にとっても楽しめそうな街だ。
しばし歩き回っていると、住宅街の中にある商店の前におばあさんが座っていた。
目が合うと「こんにちは」とにっこりと笑いながら挨拶してくれた。大きな荷物を背負っているため、観光客だとわかったのだろう。東京では見ず知らずの人に声をかけられることは、キャッチセールスを除くとほとんどない。おばあさんの笑顔に不意打ちされて、ドギマギしてしまった。
ところで、この日の夕食は一人で海産物を食べようかなと漠然と思っていた。その下調べもしてしまおう。このあたりの魚は美味しいはずなのだ。
実は、漁港の周りで美味しい魚が食べられるとは限らず、むしろ「産地にうまい魚はない」とすら言われる。
本当に美味しい魚は、高値が付く大消費地に向けてさっさと出荷されてしまうため、地元に残っている魚は凡庸なものであることが多い。
観光客向けの程度の低いお店が出るのも影響していることだろう。どことは言わないが、有名な漁港でウニ、イクラ、ホタテの海鮮丼を見たことがある。言うまでもなくすべて北海道産であるため、東京で食べるのとまったく変わらない。
そんな事情ではあるのだが、山陰地方の場合は、都市へのアクセスがあまりよろしくないため、程度の良い魚が地元に流通しやすい傾向にあるようだ。
歩きながら、美味しそうなお店にあたりをつけていく。海産物が美味しいお店を選ぶ際にはいくつかコツがある。ぼくの基準は二つ。
一つは、店舗周辺の状態である。店の前に、魚が入っていた発泡スチロール箱が乱雑に散らばっている場合は、大外れである。整然と箱が並んでいて、生臭くならないように念入りに洗ってあるかが重要なのだ。
魚の美味しさは、保存・運搬の方法に大きく左右される。せっかくの美味しい魚であっても、保存・運搬が雑だと大幅に味が落ちてしまう。生臭い発泡スチロール箱を店頭に放置するようなお店は、魚の扱いも雑であることが多く、食べ頃を過ぎてズルズルになった、味の抜けた鰺のタタキを出されたり、解凍に失敗した血みどろのマグロを出されたりすることがある。
もう一つは店頭に掲げられているお品書きである。「本日のお刺身 マグロ イカ タイ」などと書いてあるお店は、かなりの確率で外れである。マグロといってもいくつか種類があって、それがインドマグロ(ミナミマグロ)なのか、メバチマグロなのか、それともクロマグロ(ホンマグロ、シビマグロ)なのか、そして産地は何処なのかと、魚にこだわりのある店主ならば、区別できるように書くものだ。
もっとも例外もあるので注意が必要だが。店主にとっては、魚が美味しいことが当たり前すぎて、こだわりが見られないというケースも想定できる。また、大手のお店も、見かけ上は美味しそうなメニューを提示してくるので注意が必要だ。
もっともある程度お金を出せば悩む必要はなくなる。ぼくの場合は低予算で何とかしたいために頭を使う必要があるのだ。
飲み屋に目星をつけられたので、シャトルバス乗り場を探す。
駅前の「とっとり若者仕事ぷらざ ヤングハローワークとっとり」の前が乗り場となっていた。なかなか強烈なネーミングなので印象に残る。
「頭痛が痛い」のような意味が重複した表現を「重言」というらしいのだが、このネーミングは重言的な表現の金字塔であるよく見てほしい。「ぷらざ」と「ハロー」以外の言葉は重複しているのだ!
「とっとり若者仕事ぷらざ ヤングハローワークとっとり」前からシャトルバスに乗り込む。10分ほどすると、見渡す限り田畑しか見当たらないエリアへと迷い込んでしまった。迷い込んだとしか思えないような見事な田園地帯であった。
しばらく進むと、高くそびえる照明塔とメインスタンドが、唐突に現れた。上空をトビが何羽か旋回しているのが見える。砂漠で蜃気楼を見たような気持ちになった。そのくらい異様な佇まいであった。
「シャトルバスの車窓から。中央に見えるのがとりぎんバードスタジアムのメインスタンド」
「別のアングルから」
スタジアムへとバスが到着する。はるか上空をトビが悠々と滑空しながらピーヒョロロロロロと鳴いている。5月の空は雲一つなく、少し強めの風に吹かれてガイナーレ鳥取の旗がバタバタとはためいているのが見える。
なんとなく好きな場所だ。
とりあえず席を探すことにしよう。バックスタンドへと続くゲートに入っていった。
座席に着くと、すぐ前に青々とした芝生が整然と並んでいる。陸上競技用のトラックがない「専スタ」なのである。
曲線的なフォルムを持つメインスタンドの上、空がどこまでも広がっている。
BGMとして女性ボーカルの軽快なポップスが流れる中、子供達がサッカーをしていた。実に気持ちよさそうだ。
小学校の3年生くらいだろうか、広いピッチを悠々とドリブルしていく。しばし観戦することにした。大人のコーチがGK役をしていたのだが、油断していたのかドリブルで抜かれてしまった。
後はゴールに流し込むだけの場面を迎えた。しかし、シュートはコーナーポストに弾かれる。学生からプロまで、日本ではよく見られる光景だ。
「ああ!」
思わず声を出した。周囲の人も声を出してシュートが外れたことを残念がって声を出す。そして、スタジアムのため息となって響きわたる。実に良いスタジアムだ。
子供達の試合が一段落したので、スタジアムグルメを漁りに行くことにした。露店街の品目はバラエティーに富んでいた。「たこ焼き」などの定番メニューに加えて、風変わりな品目も並んでいる。「いなばのジビエバーガー」、「大山黒牛牛丼」、「鳥取県産20世紀梨チューハイ」などである。鳥取県は梨の生産が盛んな地域で、かつては生産量が全国一位だったこともあるそうだ。
海産物系の露店でも「おにぎりかまぼこ」、「あご竹輪の磯辺揚げ」、「あごと白イカのコロッケバーガー」などが売られていた。あごというのはトビウオ類の別名である。なかなか個性的な品揃えである。
その中でも「琴浦あごカツカレーバーガー」は、とっとりバーガーフェスタ2011において鳥取県内のバーガーで1位、全国でも4位に入ったと書いてある。それがどの程度の功績なのかはわからないのだが、誇らしげに書いてあったので印象に残った。
「激旨戦士チキンヒーロー」という何だかわからないチキンの隣に、「みんな食べとる鳥取のソウルフード ホルモン焼きそば」が500円で売っていた。ネーミングがいちいち面白い。
手頃な値段なのでこれを買うことにしよう。これだけだと少し量が足りないので「牛すじ煮炭火焼き」も購入した。
生ビール(大)が500円と破格の安さであったのでこちらも購入する。なんと生ビールのピッチャーも1800円で売っていた。スタジアムでピッチャー単位で売っているのは知っている限りではここだけである。
ホルモン焼きそばを買った時おまけに「カーネーション」をもらった。そういえば今日は、母の日であった。「とても嬉しいのですが、東京から来ているのでって帰ることが出来ない」と告げたところ……。
「え?!……東京から?」
店番の女性二人が固まってしまった。そして、狐につままれたような様子で顔を見合わせていた。
「東京から……?サッカーのためにですか?」
「ええ。ガイナーレ鳥取の試合を見るために来ました。」
信じられないものを見るような顔をされてしまった。確かに、わざわざ東京から鳥取まで、サッカー観戦のために来る人は多くはないだろう。いたとしても、わざわざ名乗ることもないだろうし。ぼくだってカーネーションをもらわなかったら名乗ることはなかった。
さて、食事の時間だ!!
ホルモン焼きそばを口に入れる。
ムチムチの太麺で、歯ごたえも柔らかく、トロトロ感も感じられる。麺を噛んでいると、細切れになったホルモンがプチっと弾けていく。鳥取のソウルフードと名乗るだけあって美味しい。とても美味しい。
続いて牛すじ煮炭火焼き。スジ肉というのは固いものであるが、この焼き串は、しっかりと柔らかくなっていた。焼く前の下処理が効いているのだろうか。
といっても、スジ肉なので固いには固い。個人的なものさしでいうと、オーストラリア旅行の時に食べたステーキくらいの固さだった。神戸牛のように蕩ける肉もいいが、このくらいの根性がある肉も悪くない。
噛みに噛まないと食べられない。
しかし、噛めば噛むほど味が出る。
こういった肉にはビールである。
噛んでは飲み、噛んでは飲む。
噛んでは飲み、噛んでは飲む……。
ビールが尽きたので、もう一杯おかわりしようと思い、牛すじを囓りながらフラフラと歩いていたところ突然話しかけられた。
「中村さんですか?!」
鳥取に知り合いはいない。目を丸くしてそちらを見つめると、ガイナーレ鳥取のサポーターの方であった。どうやら、インターネット上の書き込みからぼくが鳥取に来ることを察知して、探してくれたらしい。
とりスタで探されたら、逃れる術はない。
そのくらいこじんまりとしたスタジアムなのだ。鳥取サポーター同士は顔を知っている人が多いだろうし、対戦相手の琉球サポーターは10人くらいしか来ていない。いずれのチームグッズを身につけていないぼくは、目立っていたようだ。
のぞさんという声をかけてくれた男性と、一緒にいた女性サポーターの3人で談笑する。のぞさんによると、今日は抜けるような晴天であったが、山陰地方は雨が多く、こういう天気はそれほど多くないとのことだった。
しかし、せっかくの晴天であったのだが、今日の客入りはいまいちなのだそうだ。田植の時期や地区の運動会の日程と重なったのではないかと推測していた。鳥取は、地域の繋がりが強く、自分の地域のイベントは優先的に参加するのだそうだ。
ガイナーレが所属しているJ3は、この年、2014年にスタートした。新しいクラブが中心のリーグであり、まだ繁盛しているとは言えない。平均観客数が1000人を切るクラブもある。その中で、ガイナーレ鳥取はお客さんが多い方で、平均3000~4000人は来場していた。しかし、この日の入場者数は2100人であったので、確かにだいぶ少ない。
ガイナーレの人気選手を尋ねてみると、17番のDF馬渡和彰選手が人気があって、プリンスカズと呼ぼうとしているらしい(ということはまだ定着はしていないようだ)。
トークが上手な22歳(当時)の新卒選手で、既に妻子がいるらしい。既婚者ということで女性人気はいまいちなのかと思いきや、代わりに男性ファンも多く馬渡男子(まわたりだんし)と呼ぼうとしているらしい。
と書いたのだが、2019年から川崎フロンターレへと移籍することもあり、説明は不要かもしれない。
DFでありながら、今季はチームトップの得点をあげているが、トップといっても10試合で3点である。鳥取は深刻な得点力不足で、ここまでの10試合で7点しか取れていなかった。
しばらく話していると、試合が始まる時間が近づいていてきた。のぞさんと別れ、座席に戻った。
席に座って練習風景を眺める。前日に訪れたノエビアスタジアムもピッチまでの距離が非常に近かったが、とりスタも非常に近いところから観戦できた。
ゴール裏のほうに目をやると「6000000000分の1のストライカー 鳥取の誇り 谷尾」という横断幕が出ていた。0が多すぎて何のことやらわからなかったが60億人に1人、つまり世界に一人という意味だと気付いた。鳥取のものには独特のオリジナリティが感じられる。
試合開始を前にして、鳥取サポーターが歌ったのは「丘を越え行こうよ」で始まる童謡「ピクニック」を原曲としたチャントであった。牧歌的な雰囲気が妙にマッチした。
全力で行こうぜ 勝利を信じて
鳥取の戦士よ 我らの誇り
攻めろ 羽ばたけ ゴール目指してオイ・オイ・オイ・オイ
ラララ・ガイナーレ ララ・ララララ・ガイナーレ
さあ歌声合わせよ 俺らがついてる 今日も勝利だ
次のチャントはアメリカのフォークソング「グリーングリーン」を原曲としたものなのだが、「オッオー オオオー レッツゴーカシワー!(カシワ!アレアレ!)」と空耳した。
しかし、ここは鳥取であり柏ではない。絶対に聞き間違えているはずだ。しかし、もう一度聞いてみるがやはり「レッツゴーカシワ」に聞こえる。いや、待てよ。柏という名前の選手が所属していることもある。そう思って調べてみるが、柏選手はいなかった。
三度目でようやくわかった。「オッオオーオオオー レッツゴーガイナー(ガイナ!アレアレ!)」であった。ガイナーレのガイナである。空耳はしたが、こちらの曲もとりスタの開放的な雰囲気とマッチしている。とても気持ちがいい。
バックスタンドの観客も、チャントに拍手を合わせていく。スタジアムの熱は刻一刻と高まっている。
そして……。
J3 第11節 ガイナーレ鳥取 vs FC琉球
Kick off!!
【おまけ 鳥取の海産物屋さんを選んだ理由】
※旧OWL magazineは有料コンテンツであったため、有料部分としておまけをつけていたことがありました。せっかくなので公開します。
まず、刺身のバリエーションが素晴らしく、恐ろしく安いです!!
平政、平目の刺身が680円、真鯛、黒鯛が580円。量にもよるが、この価格設定なら色々食べられます。
単に安いだけなのかそれとも、安かろう悪かろうなのかというのは判断が難しいところではありますが、安かろう、悪かろうでこれだけ多くの種類をそろえるのは効率的ではありません。次々と腐っていくからです。
工場で加工してパッキングしたものが流通していることが多いマダイやアジ、カンパチなどは安居酒屋でも確実にありますが、白バイ貝は、能登半島から西の日本海沿岸に分布しているご当地ものの貝です。また、貝類は鮮度が落ちやすいため、扱うのが面倒です。
ラインナップも多く、廉価で美味しい魚が揃っているのでとても素敵でした。
平目、平政、真鯛、黒鯛、はまち、ほうぼう、真イワシ、丸あご、甲いか、モサエビ、白ばい貝、鰺(たたき、刺身、なめろう)。
なんと12種類も!!素晴らしい!!
ちゃんとマイワシと書いているところも好感度アップです。日本近海で食用とされているのは、カタクチイワシ、ウルメイワシ、マイワシの3種で、イワシといって出てくるのは大抵マイワシです。
丸あごとわざわざ書いているところもポイントアップです。あごというのはトビウオのことですが、実はこのトビウオというのは1種類ではなく、日本近海に30種類程度います。
ハマトビウオなどが有名ですが、この丸あごというのはおそらくホソトビウオのことだと思われます。正直聞いたことがなかったのですが、調べてみると日本海に回遊してくる種類のようです。こういうのをわざわざわかるようにしてくれると、魚が好きな店主がいることがわかってニヤリとすることが出来ます。
鰺も、たたき、刺身、なめろうの選択肢を与えてくれるのが嬉しいですね。ぼくはなめろう一択です。世界一の食べ物、それがなめろう。
そして決め手になったのはあかもくです。
あかもくはご存じでしょうか。アカモクです。ホンダワラ科の褐藻類で……。とやるとわけがわからなくなると思うのでやめておきます。
漁港などにも大量に発生するタイプの海藻で、言ってみれば海の雑草みたいなものです。ワカメも似たようなところがありますが、こちらはみんな喜んで持って帰ります。ただ、アカモクは食べるところが少なく、船のスクリューにも絡むことがあるのでけむたがられます。
ぼくも、シュノーケリングをしている時に足に絡んで辟易したことがあります。
このアカモクを叩いて粘り気を出させて、卵などをかけてツルっと食べる方法が少しずつ流行り初めていました。ぼくが研究していた神奈川県の三浦半島では、おそらく2010年頃からです。
その流行が伝わってきたのか、それとも古くから食べる習慣があるのかはわかりませんが、アカモクのようなものをわざわざ料理として出すからには、ある程度のこだわりがあることは間違いありません。
今でこそまぁまぁ見るようになりましたが、当時はかなりレアでした。
このアカモクが決め手になって、このお店に入ろうと考えたわけです。そして、実際にこのお店に行くわけですが、その時は味のことなんかどうでもよくなるくらい……。
というわけで、鳥取紀行は続きます!
後編はこちら
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