OWL magazineの本格派サッカー旅記事第一弾として、ガイナーレ鳥取紀行について書いています。

前編はこちら

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兵庫県三宮から鳥取へと移動し、すなば珈琲で朝食をとり、とりぎんバードスタジアムへと向かった。そして、スタグルを堪能した後、キックオフの笛が吹かれた。

2014年 明治安田生命J3リーグ
第11節 ガイナーレ鳥取 vs FC琉球 Kick off!!

ガイナーレ鳥取
【先発】
GK 1 杉本 拓也
DF 17 馬渡 和彰
DF 2 柳川 雅樹
DF 6 福王 忠世
DF 4 戸川 健太
MF 15 山本 大稀
MF 8 倉貫 一毅
MF 22 森 英次郎
MF 20 柿木 亮介
FW 11 岡本 達也
FW 19 住田 貴彦
【控え】
GK 48 小針 清允
MF 13 安藤 由翔
MF 24 小石 哲也
MF 25 奥山 泰裕
FW 9 谷尾 昂也
【監督】
松波 正信
FC琉球
【先発】
GK 33 田中 賢治
DF 6 屋宮 大地
DF 3 河端 和哉
DF 4 浦島 貴大
DF 2 浅田 大樹
MF 13 小寺 一生
MF 27 友利 貴一
MF 9 中山 悟志
MF 15 藤澤 典隆
MF 11 小幡 純平
FW 17 青木 翔大
【控え】
GK 21 高野 純一
DF 24 上田 陵弥
MF 14 富所 悠
MF 26 松田 悠佑
FW 10 真栄城 兼哉
【監督】
薩川 了洋

試合が始まる。

心地よい天候であったが、試合は重苦しいものであった。

両チームとも、隙間のない狭いスペースでプレーすることが多く、攻撃の形を作ろうとすると、ミスをしてボールを失ってしまう。これが延々と繰り返された。

何度も何度も繰り返された。

チャンスらしいチャンスがなかなか生まれない。

唯一15分に、鳥取のMF山本へと、斜めに切り裂く縦パスが入った。しかし、トラップにもたついているうちにディフェンスに追いつかれてしまった。シュートはディフェンスの足に当たり、力なくGKの前に転がっていった。

よく言えば戦力が拮抗しているのだが、何も見所がないまま終わってしまう懸念もある。

塩試合の予感がする。

重い試合ではあったが、サッカー観戦は楽しむことが出来た。例えばオフサイドの判定があった時に、鳥取のMF柿木が、副審と話しているのが目の前で見えた。心象を悪くしないようにさわやかな笑顔を浮かべながらも、言うべきことを言っているのだろう。

双眼鏡を使わずに表情まではっきりと見えるスタジアムは実はそれほど多くない。表情だけではなく、選手達が声を掛け合っているのもよく聞こえてくる。

ここではサッカーが息をしているのが聞こえてくる。

いいスタジアムだ。

ガイナーレのゴール裏のサポーターは大きな声を出していて、バックスタンドの観客も拍手で追従する。メインスタンドは背が高く、小さいながらも屋根もついているためか、音がよく反響する。スタジアム全体で応援している雰囲気が醸成されている。

ところでアウェーの琉球側はどうなっているだろうか。

全部で10人程度の観客がいて、声を出して応援しているのは4人だった。その4人は、大学生から二十代半ばくらいの年齢に見える。そのうち1人は若い女性であった。仲良し4人組で、沖縄から出て来ているのだろうか。

3人とも、その女の子のことが大好きなんだけど、グループを壊したくないから誰も告白できないでいる。そういったサークルの姫ジレンマが生じているのかもしれない。

「いちばん大事なのはFC琉球が強くなることだからさ。今は恋愛なんて考えられないよね」

などという美しい嘘の言葉を重ねながら――。

「これぞ、青春ストライクだ!!」などという勝手な妄想が頭をよぎっていった。

しかし、この4人は誰も沖縄には住んでいなくて、全国各地からバラバラに集まってきたという情報を後に入手した(沖縄で会ったひげさんありがとうございます)。それもそれで面白い話なのだが、何だか少し残念である。

さて、FC琉球は、若くテクニカルな選手が揃っていた。思わず声をあげてしまうような巧みなドリブルやパスワークが見られた。特にMFの藤澤典隆が、とても上手で、ぼくは大好きになってしまった(現鹿児島ユナイテッド)。

一方で鳥取は、力強くダイナミックなサッカーをしている。琉球がドリブルで崩すと、鳥取の選手が身体を張ってシュートを止め、前線へと一気にボールを蹴り出す。

両者、よく戦っていた。良いチームだった。そして、対照的なスタイルであるが実力は拮抗していた。ただ、両チームとも、決定力だけが欠けていた。

どれだけのシュートチャンスが訪れても、どうしてもシュートが入らない。もう少し実力差があれば得点シーンも見れたかもしれないが、見事に噛み合って互角なのである。

両チーム無得点のままハーフタイムになった。

ぼくは、一度スタジアムの外に出て露店を回ることにした。座っていても退屈だからだ。お腹は十分に満たされていたのだが、「白バラコーヒー」のブースに吸い込まれた。ガイナーレ鳥取のユニフォームの背中に書いてある名前である。やはり、Jリーグを応援してくれている企業の商品は、こちらもなるだけ購入したい。

鳥取ガスと契約することは出来そうにないので、100円程度のコーヒーを買う程度なのだが。小さなパックに入れられた白バラコーヒーは、甘く濃厚な味がした。コーヒーというよりも、上等なコーヒー牛乳であった。

他の露店をみると、ハーフタイムにも列が出来ていた。この日の入場者は2100人と非常に少なかったのだが、なかなか繁盛しているようだ。

後半が始まる。

相変わらずシュートが入らない。シュート以外の部分は熱戦なのだが、最後のところがどうしても冴えない。もどかしい展開である。しかし、シュートが放たれる度に得点への期待がスタジアムに広がっていくのがわかる。決定機が訪れる度に、大きな声が漏れる。

試合中に一度でも声を出してしまうと、スタジアムの魔物に魅入られてしまう。一度そうなると、次のチャンスにはもっと熱の籠もった大きい声を出してしまうものなのだ。

試合が終盤に向かっていくにつれて、多くの観客が魔に魅入られていく。スタジアムの熱が、加速的に高まっていくのが感じられる。サッカー観戦で最も興奮する時間である。

鳥取サポーターは、フリーキックやコーナーキックなどのセットプレーの時に、タオルをグルグルと回しながら応援する。

セットプレー時の特別な応援は、スタジアムの雰囲気を加速させていく効果がある。両チーム共に、何度も何度も決定的なチャンスを迎えた。しかし、GKのファインセーブに止められたり、ノーマークなのにボテボテのシュートが転がったり……。ありとあらゆるシュートがゴールから逸れていった。

そして、そのまま一度もゴールが決まらずにスコアレスドローに終わった。

公式データ

地味な試合であった。一つもゴールは決まっていないし、観客も2100人しかいない。

しかしながら、ぼくは非常に満足していた。それは、とりスタの臨場感、響き渡るサポーターの応援、加速していくサッカーの鼓動が味わえたためだ。

といっても、サポーターからすると不甲斐ない試合だったようで、ブーイングをしている人もいた。失意の降格のあと、11試合で7得点しかしていないわけだから、フラストレーションも溜まることだろう。

ぼくからすると、選手達は、それぞれの技量を最大限に発揮して努力しているように見えた。試合を台無しにする致命的なミスや、闘志を欠いたプレーがあったようには思わなかった。若きFC琉球の選手達を圧倒するだけの戦力差がなかったのだ。

それを仕方がないと取るか、不甲斐ないと取るか。外部の人間としては、試合の熱に満足できたから良いとしよう。一方で、とりスタでゴールシーンを見るという宿題も残った。

なんかいた!

シャトルバス乗り場に向かった。「とっとり若者仕事ぷらざ ヤングハローワークとっとり」前まで戻ろう。シャトル乗り場の列は短かった。観客の多くは自家用車で来ているのだろう。

並んでいるとビブスをつけ、カメラを抱えた男性が現れた。何のメディアかわからないが、試合についての感想をサポーターに聞いて回っているようだ。ぼくのすぐ後ろにいる人が「当たり」を引いた。

彼の感想は「得点力不足が深刻だ」とのことだった。それはそうだろう。対策を聞かれると「サガン鳥栖の豊田か、サンフレッチェ広島の佐藤寿人のような選手が欲しい」と言っていた。それもそうだろう。

得点さえ取れたら勝てるし、得点以外はいいチームなのだ。しかし、豊田や佐藤のような絶対的な選手は決して獲得することが出来ない。優れたストライカーには、必ず高い値段がつく。それがサッカーの掟なのである。なかなか難しいところだ。

この後の予定は決めていなかったので、鳥取砂丘にでも行ってみようと思っていた。すると、試合前に出会ったのぞさんから連絡が届いていた。県内を車で案内してくれるということなので、渡りに船とお願いすることにした。

とはいっても既にシャトルバスに乗ってしまっていたので、「とっとり若者仕事ぷらざ ヤングハローワークとっとり」の前で待ち合わせをすることにした。

のぞさんと合流すると、海岸沿いのジオパークへと向かった。ジオパークとは、「大地の公園」を意味し、科学的に価値の高い自然遺産や文化遺産を保全し、教育や観光へと利用していく試みのことである。

というと少し難しいので平たく言うと、観光しやすいようにちゃんとした方法で整備された自然環境のことである。

我々は麗らかな陽気の下、海岸沿いの道路を進んでいった。キラキラと輝く日本海は深い青に染まり、遠くには漁船がいくつか浮かんでいるのが見える。風になったような気分になる。

時折景色の良い場所でとまって写真を撮ったり、のぞさんの子供の頃の思い出話を聞いたりしながら30分ほど進む。県外から人が尋ねてくるとこのあたりを案内するのだそうだ。

車を停めて、海岸沿いの岩場へと階段で降りていった。ジオパークに認定されてからこういう階段が出来たらしい。確かにとても歩きやすい。

海の目の前まで降りていくと、無骨な奇岩が海面から突き出ていた。よくみると地層が斜めに走っているので、隆起した地層が、長い年月をかけて浸食されてきたのだろうか。

地形のことはわからないが、海の生き物は得意である。

海を覗いてみると、一面をアカモクがびっしり覆っているのが見えた。アカモクというのはホンダワラ目の褐藻類である。

大部分を占める茶色い「苔」のような植物がアカモク。全然美味しそうに見えない。

朝方、目星をつけた居酒屋にもアカモクのメニューがあったのだが、これだけたくさん生えているとなると、原価はただみたいなものだ。もっとも、食用に成る貝類や海藻類は、大概の場所では採捕が禁止されているのだが、立て看板の警告を読む限りではアカモクはセーフのようだ(本当にセーフかどうかは、漁協に聞かないとわからないが)。

海岸にはワカメも見えていた。メカブが美味しそうであるが、これを持って行くと、法律上は密漁という扱いになるはずだ。

波打ち際の石をひっくり返してみると、ヤドカリがいくつもくっついていた。ヤドカリの数は多すぎるくらい多かった。ある生物が多いと言うことは、そのエサも多いことを表している(ヤドカリは、生物の死骸や海藻の切れ端などを食べている)。

ぼくが見てきた海よりもはるかに生物量が大きく、豊かな海であることが一目でわかった。こういうところで潜ってみたらアワビやサザエも随分見つかりそうだ。釣りをするにもいいだろう。こんなところに魚がいないわけがない。

のぞさんは、子供の頃この海岸で泳いでいたらしい。そして、大阪のおっさんが来たときもこの海岸に来たと言っていた。大阪のおっさんは、どうやら趣味でやっている音楽関係の友人のようだ。

ぼくが連れてきてもらったポイントには大阪のおっさんが常に先回りしていた。観光案内と同時に、大阪のおっさんの感想や振る舞いなどを聞かされることになった。この石に座っていたとか、このアングルで写真を撮っていたとか。一体誰なんだろうな、大阪のおっさん。

随分と長いこと遊んでしまったが、鳥取観光のメインディッシュに移ることにしよう。鳥取と言えば、砂丘である。

砂丘に着いた時にはまだ日が高く、薄いヴェールのような雲がうっすらと広がり、隙間に青い空が覗いていた。

「逆光の鳥取砂丘」

砂丘について驚いたことは3つある。まずは、馬の背と呼ばれる地形の美しさ。次に、その意外なまでの高さ。何と高さは50メートルもあるらしい。そして、その馬の背の頂上でもWi-Fiが使えるのである。

何て便利なんだ、鳥取県。

馬の背へと向かって歩いて行った。ぼくは、砂漠を旅する行商のような気持ちになっていた。不思議な感覚になれる場所である。月の沙漠である。

スニーカーが砂まみれになってしまうとのことなので、のぞさんからサンダルをお借りした。そのサンダルは、以前大阪のおっさんが履いたものであることは言うまでもあるまい。

もっとも、裸足で歩く方がずっと気持ちよかったので、すぐに脱いでしまった。といっても、気持ちがいいなんて言っていたのは最初のうちだけで、馬の背を登り始めると結構きつい。

砂の足場とは厄介なものである。強く踏みしめると、足場が崩れていってしまう。力の伝達効率が非常に悪いのだ。運動不足の身体を呪いつつ、少し息を切らしながら登り切った。馬の背の向こう側には海岸線がどこまでも続いている。少し赤くなった太陽が、海に飛び込もうとしている。

頂上のあたりは風が強く、砂地には次々と風紋と呼ばれる跡が出来ていく。砂が生きている。砂丘が崩れることなく、ずっとそびえ立っているのは、この強風がどこからか砂を運んでくるからなのだろう。

馬の背から海の方を眺めると、カップルが砂の壁を登ってきているのが見える。「頑張れ頑張れ」と励まし合いながら登ってくる様が、非常にほほえましい。しばらくしてようやく頂上に上がってきたので、「お疲れ様!大変だった?」と聞くと、息切れしながら「大変っす……!」と答えてくれた。

「力尽きてまったりするカップル」

そんな二人を見て、なんだか身体がムズムズしてきた。「これこそが青春ストライクだ!!」

のぞさんに一緒に降りないかと聞いてみると「上で荷物持って待ってますよ」とニコニコしている。

ええい!!ままよ!!

「砂の崖」を一気に駆け下りて言った。足首まで、いや、スネの下のほうまで砂に埋まっていく。そして、一度出発すると止まることが出来ない。

「ノーバディー!ストップ!ミー!!!」と、(心の中で)叫びながら滑り降りていく。実に爽快であった。満足である。波打ち際までいって、海水を少し触る。ひんやりする。

そして、深呼吸した。

一時の欲望に身を任せ、快楽を貪ってしまうと、後でとんでもないしっぺ返しに合う。世の常である。「行きは良い良い、帰りは辛い」という言葉もある。あそこに戻るには50メートルの砂の崖を登らなければならない。

とはいえ、苦難は人生のスパイスである。望むところだ。ぼくは、フッと強く息を吐いて、一気に砂の壁を登り始めた。

うおおおおおおおお!!!!

渾身の力を込めて駆け上がる。しかし、いくら力強く地面を蹴っても、その分だけ深く埋まってしまう。ちっとも前に進まない。ちょうど半分くらいで力尽きてしまった。

情けない……。

そう思い、気力を振り絞ってもう一度駆け上がる。しかし、残り10メートルくらいのところでまた力尽きてしまった。頂上に近づくにつれて角度がきつくなり、砂も崩れやすくなっていく。足も深く埋まる。20 cm以上、砂に突き刺さってて埋もれている。砂の感触はひんやりと冷たくて気持ちが良いのだが、さっぱり前に進まず、身体は悲鳴を上げている。

見上げるとのぞさんが見下ろしてニヤニヤしている。だから一緒に来なかったのか……。

「登っていたら、人間が転がってきた」

ぼくは何度も深呼吸して、最後は斜めに歩いて登った。はー、疲れた。青春とは疲れるものなのだ。のぞさんがいうに、プロボクサーの亀田興毅選手は、わざわざ鳥取まで来て、砂丘を上り下りしていたらしい。確かに足腰と心肺機能を鍛えるにはもってこいの練習メニューであろう。

いつの間にか日没が近づいていた。夕暮れの砂丘は実に美しい。

入り口のあたりまで戻り、「馬の背」に沈む夕日を眺めることにした。日陰のところの砂は、すっかり温度が下がっている。砂丘の入り口のあたりに、二人並んで腰掛けて、ペットボトルのお茶を飲みながら日が沈むのを眺めていた。

ヒューっと風が吹く砂丘を、二羽のツバメが飛んでいる。キュイキュイ鳴きながら戯れていた。

もしかしたら、ツバメにとって、鳥取砂丘はデートスポットなのかもしれない。幸せそうに飛んでいるツバメを横目に、のぞさんから大阪のおっさんの話を聞いていた。

大阪のおっさんを連れてきた時はこんなに綺麗に夕日が見えなかったとかそんな話であった。大阪のおっさんのことがだいぶわかってきたのだが、本当に誰なんだろう。大阪のおっさん。

「大阪のおっさんも眺めた夕日」

満足がいくまで夕日を眺め、しっとりした雰囲気になったので、鳥取駅周辺まで言って夕飯を食べることにした。

「大衆酒場 村尾」というお店に決めていた。どうしてこのお店にしたのかについては、前編のおまけをご参照のこと。

まず、アカモクの納豆和えを頂いた。アカモク自体にも粘り気があるので、なかなかのネバーネバーである。

これが食べたかったのだ。お刺身もとても美味しい。鯵のなめろうも美味しいし、価格がとても安い。お店ごと東京に持って帰りたくなる。海産物を堪能していると、のぞさんにこう聞かれた。

「ガイナーレ鳥取はどうしたらいいと思いますか?」

そういえば、昼の間は観光が忙しくて、ガイナーレの話はあまりしなかったのだ。嬉しそうに鳥取の観光案内(と大阪のおっさんの話)をしてくれていた時とは全然違った、真剣な表情であった。

のぞさんは真剣な表情だった。J3に落ちてしまった現状に対して、サポーターとして何が出来るのかを考えているからこそ、『サポーターをめぐる冒険』を書いたぼくを、わざわざ探してくれたのだろう。

とはいえ、一体どうすればいいのだろうか。意見を求められたが答えが出てこない。ぼくはまだJリーグを見始めたばかりだから、特別な知識は何も持っていないのだ。

ぼくは鳥取がとても好きになった。生き物も多いし、魚も美味しいし、カフェも多い。地元への愛情も各所からひしひしと感じられる。砂丘も美しく楽しい。

とりスタは、屋根がほぼないことを除いては文句なく素晴らしいスタジアムだったし、観客の熱もあった。正直いって何が悪いのかよくわからない。どうしてお客さんが集まらないのか。地元を愛する人が多い土地のように見えるのに、その愛情がクラブへの集客に結びついていないように見えるのは、どうしてなのか。

今までのわずかな経験を元に一生懸命考え、意見を交換し続けた。鳥取はとても素敵な土地だ。何とかうまくやる方法があるのではないだろうか。

地域のクラブは、都市のクラブに比べて予算が少ない。そのため、戦力も整わず、強くなるのも難しい。従って、強いチームにはなりづらい。非常に単純な方程式が当てはまる。

小さな地方のクラブが、トップリーグで毎年優勝争いをする強いチームになることはそうそうあることではないのだ。では、地方クラブのサポーターはどういうモチベーションで応援すればいいのだろうか。

勝ち続ける強いチームではなくても、人を集めることは出来るのだろうか。そういった成功事例はあるのだろうか。

そういえば、長野県松本市をホームとする松本山雅は小さな街のクラブなのに毎試合1万人近く集めていると聞いた。山梨県甲府市のヴァンフォーレ甲府も1万人以上集めていたはずだ。鳥取市と甲府市の人口は約19万人で、松本市は約24万人だ。甲府や松本では、一体何が人を呼び寄せているのだろうか。自分で目で見てみたくなった。

こんな動機から、ぼくは全国のJリーグのある町を回るようになったのであった。

深夜バスが品川駅に到着するのは約10時間後だ。安いバスなので座席は狭い。ハードな夜になりそうだ。席で落ち着いて、お土産に買った「とうふちくわ」を囓る。ちなみにこれは、FC東京サポーターのOSSAN氏のご推薦である。帰りのバスで齧るのがお勧めといっていたがその通りの味わいで、淡白だけど深い味わいがあって、疲れた身体に染み渡るようであった。

揺れるバスの中考える。鳥取はどうしたらいいのだろうか。鳥取県は全国有数のマイナー県であり、人口は減少の一途である。

そんな土地だからこそ、全国リーグを戦うサッカーチームがあることは素晴らしいことのはずだ。

プロ野球は、12球団のみであり、その多くは大都市に本拠地を持っている。札幌、仙台、東京に2つ、埼玉、横浜、千葉、名古屋、大阪、神戸、広島、福岡。ほとんどが政令指定都市であり、日本屈指の大都市である。

一方でサッカーでは、J3まであわせると50以上のクラブが存在している。もちろん大都市にもあるが、地方都市にも満遍なく存在している。Jリーグ入りを目指している地域リーグのクラブを含めると、すべての都道府県でサッカーを楽しむことが出来る。こんな貴重なコンテンツはないはずだ。鳥取県が、鳥取の名を冠したクラブが、日本全国の都市と戦っていくのだから、絶対に面白いはずだ。

とは思うものの、全国相手に勝負するには、鳥取のような経済規模が小さく、人口も少ない都市は不利なのである。そのため、思うように勝てずに、フラストレーションが溜まるということもあるだろうと思う。

だけど、それだから価値があるんだろうと思う。全国各地が、その地域のプライドをかけて全力で戦うからこそ競争的で面白いリーグになるのだ。そして、競争的なリーグが存在することで、人々のサッカーに対する熱が高まり、良い選手が育っていくことが期待される。勝てずにいる時はとても悔しいだろうけど、勝った時は爆発的に嬉しいはずだ。

まだ多くの地域にはサッカーが根付いているとは言いがたい。すべてはこれからなのだ。そりゃ鳥取が日本最強とか世界最強のクラブになるとは思わない。けど、鳥取は自然豊かで、食べ物も美味しく、鳥取砂丘のような誰もが知っているシンボルを持っている素晴らしい土地なのだ。

ガイナーレ鳥取があったからこそ、ぼくは鳥取を訪れたし、鳥取が大好きになった。このクラブが鳥取の人の誇りとなって、ずっとずっと続いていって欲しい。

ぼくに出来ることがあるなら何でもしたい。でも、ぼくに出来ることは何があるだろうか……。まずは全国を回ってみよう。日本中回った後なら何か見えてくるかもしれない。

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以上は、2014年5月に鳥取を訪れた際のことを、2015年頃に綴ったものだった。この文章のようなJリーグ旅の記事がどこにも掲載できず、塩漬けになっていたことから逆算して生まれたのがOWL magazineなのだ。

ようやく世の中に出せたことで感無量である。塩漬け記事はまだいくつもあるので、念入りに塩抜きしつつ、新しい旅にも出たいと思っている。

帰り道での所感として、地域クラブはどうしたらいいのかというのを考えた。現在では考えが変わったところもあるが、変わっていないところは「どうしたらいいかわからない」というところだ。

というのも、地域の人は、というよりも特別な興味をサッカーに向けていない人は「強くないと興味を持たない」からだ。こればっかりはそうそう変わるものではない。

テニスの錦織圭選手が注目される前から応援していた人は少なく、世界で勝ち始めた時から急激に人気が上がった。ラグビーの日本代表だってそうだ。弱いと思われたら支持者は増えないのだ。

もちろん、弱さをPRすることで逆に応援を呼び込もうという戦略も想定できる。しかし、そんなことをしていたら、地域リーグまで真っ逆さまに転がり落ちてしまう。

地域リーグの界隈にはロック総統が提唱する「今そこにあるサッカーを愛せ」という理論が知れ渡っている。要するに、身分相応の順位で満足して、それ以上の上を目指すべきではないという考え方だ。

この理論の枠組みにおいては、鳥取がJ1を目指す、J1での優勝を目指すことに固執すると、「Jリーグ原理主義」という悪しき思想に取り付かれていることとなる。

これは非常に正しい考え方なのである。J1優勝というテーマは、FC東京とか、FC東京とか、FC東京のようなクラブが掲げるべきものだ。

小さな地方クラブには分不相応だし、お客さんがJ1で優勝するというストーリーを本気にしてしまうと、なかなか勝てないチームに対する不満が増大していく。

ただ、上を目指さないことには、つまり成長していこうという意欲がない限りは、やっぱり支持者は集まらないんじゃないかなという気がしている。ロック総統の「今そこ理論」は、不平不満を言うサポーターたちを見ながら考えたものであって、地域クラブが目指すものではない。

つまり、こういうことだ。結婚は妥協の産物だという。そして、サポーターとクラブの結婚がクラブ文化を成立させていく。そういう意味で「今そこ理論」はサポーター側に妥協させるための理論なのだ。

しかし、クラブ側はサポーターの妥協に甘えてはいけないと思う。このクラブを応援し続けることで、楽しい世界が切り開かれていくことを訴えていかないといけない。

それって何なんだろうな。

と、考えた上の一つがスポーツツーリズムだった。鳥取は旅先としては素晴らしく魅力的だった。今回はジオパークと鳥取砂丘くらいしか行っていないが、きっと大山のほうにいっても素晴らしいだろうし、少し遠いが境港は妖怪だらけだ。地元の人と交流するようなイベントがあっても面白いと思う。

この先はぼくの仕事ではないが、例えばアウェーサポーターと一緒に試合前後に鳥取砂丘でバーベキューをするイベントとか、前乗りで鳥取の農家に泊まれるプログラムとか、漁業体験とか、そういったプログラムをサッカー観戦とくっつけてしまうことは可能かもしれない。伝統工芸品作りもいいと思う。

この提案は少し雑なのだけど、鳥取は外から人を呼び込むことで幸せになる土地なんじゃないかと感じた次第だ。

きっとのぞさんは、大阪のおっさんがまた遊びに来たときに、「作家の中村さんは馬の背から駆け下りたよ」と言っているんじゃないかという気がする。この謎の人物、大阪のおっさんの存在は非常に大切なことを教えてくれた気がする。

やっぱり鳥取には滅多に人が尋ねてこないのだ。だからたまに人が来ると驚くし、喜ぶのだろうという気がする。そして、Jリーグというシステムがある以上、ある程度はオートマティックにアウェーサポーターが尋ねてくるシステムになっている。

尋ねてくる人たちが、試合会場に集まって、三々五々散っていくだけではなく、何らかの導線を引いて、地元の人との縁が作れれば、鳥取は幸せになるんじゃないだろうか。Jリーグによって幸せになるんじゃないだろうか。

お読み頂きありがとうございました。この記事が面白いと思った方は是非シェアをお願いします。始まったばかりのプロジェクトなので、皆様のご支援とシェアがなければすぐに埋もれてしまうかもしれません。

OWL magazineでは、今後も良質な旅記事と、面白い企画を考えていきたいと思っています。皆様よろしくお付き合いください!!


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